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社員

気が付けば入社3ヵ月後には社員になっていた。

社員と言っても名ばかりで社会保険も何も無い名前だけのもの。

一応正社員の様な雇用形態になってはいたが、当時の私はそんな事はどうでも良かった。

釘調整が何時から出来るのか?ただそれだけを夢見ながら、日々の労働に明け暮れていた。

パチンコ屋は年末が近くなると人手不足に成る。それは当時私が働いていたお店も例外では無くそれはもぅ酷い状況だった。

中には月間300時間を超えて勤務をするバイトまで出現していたが、それだけでは人手が足りず

私もバイトと一緒になって、朝から晩まで働いた。バイト達は勤務すれば勤務時間分の給料が貰える訳ですが

私は社員と言う事で月給製。何時間働いても貰える給料は一緒でした。

当時の給料を時間給計算に直せば、一番酷い時は時給400円の頃も有りましたが、

それでも釘師に成りたいと言う強い気持ちと、パチンコ屋に居てる事が何より楽しかったので

心が折れる事は有りませんでした。

釘を叩けるその日が来るのを夢見て、日々の労働に追われていた頃、

ちょうど入社して3回目の新台入れ替えの日にその夢が叶う。師匠が始めて調整している島へ入れてくれた。

そして師匠はニヤニヤしながら『叩きたいんやろ?』と一言発し私にハンマーを手渡した。

釘師が使うハンマーを持つのは初体験。

趣味で買った実機の釘を叩く為に、ホームセンターで買ったハンマーを持って居たが、

それとはまるで次元が違う。夢にまで見たピカピカに輝く銀色のハンマーを握り、

師匠が叩いても良いと言う台の前に座った。

その台は『たこ焼き 八ちゃん』と言う羽根物。

たこ焼きはっちゃん


一応プロとして羽根物で食っていた経験も有ったので、先ずは思いのまま釘を開けて見た。

師匠はただニヤニヤしながらこっちを見つめながら一言・・・

『お前釘師になりたいのやろ?』

『そんな釘にしたら客に根こそぎ持っていかれるがな』

『ええか・・釘師言うのは客から金を取り上げなアカン』

『ただ取り上げるのは誰にでも出来ることや』

『客に勝てるかも?と思わせて負けさす』

『一番釘師に大切な事は客に満足して負けてもらう事や』

『今はもぅ昔と違って釘の重要性は少なくなった。』

『けどな・・・パチンコは絶対に釘や!!』

『釘が無くなったらもぅパチンコやないからな~』

『釘が有るからパチンコはおもしろいんや~♪』


師匠のこの言葉。今でも胸に刻まれ一生忘れられない一言に成っている。

そんな言葉を発しながら、盤面に向かい調整する師匠の姿を見て自分は一生この世界で生きていたいと心の底から思った。

そしてその日の夜…

師匠が練習用に作ってくれたハンマーを受け取る。自分の仕事全てが終わった後なら、

倉庫に有る古い台を練習に叩いても良いと師匠の了解が出た。仕事が終わって皆が帰った後、

一人倉庫に残って釘を叩く練習を毎日した。最初は中々うまく釘の芯を捕らえる事が出来なくて

役物や釘の頭を飛ばしたりしたが時間を忘れて練習するにつれ、釘の芯を捕らえる事が出来る様になって行った。

しかし、幾ら練習してもどうしても出来ない事が有った。

それは釘師の腕を見極める判断材料ともなるハンマーの音。釘の芯を完全に捕らえた時にしか出ない鈍く重い低音の音。

素人が釘を叩くとコツコツと言う音がする。しかし師匠が叩くとゴツゴツと言う低く鈍い低音の音がする。

そんな音が出したくて更に釘を叩く練習を毎日狂った様に倉庫に残っては練習していた。

そんな有る日マネージャと師匠が仕事の事で大喧嘩を始め翌日オラの身にとんでもない出来事が起る。


【続く】

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